なぜ日本人は住宅ローンを借り換えないのか|アメリカの住宅ローン事情を交えて解説

(写真=Stasique/Shutterstock.com)

2017年3月、労働指標が堅調に推移する米国では、2017年中に米連邦準備制度理事会(FRB)が何回利上げに踏み切るかに市場の注目が集まっています。

一方、日本ではマイナス金利政策が続いた状態です。

こうした中央銀行の金融政策に敏感にならざるをえない人たちがいます。

なぜなら人生で最大の買い物とされるマイホームのローン金利に少なからず影響を及ぼすからでしょう。

金融政策によって金利が変動する時は、住宅ローンの借り換えも頭をよぎりますが、日本では借り換えに対し慎重もしくは気にも留めていない姿勢に始終している感が否めせん。

一方、米国ではリファイナンスと呼ばれる住宅ローンの借り換えが広く浸透しています。

日米の住宅ローン借り換えの違いはどのように生じているのでしょうか。

今回は、なぜ日本人は住宅ローンを借り換えないのかに関してアメリカの住宅ローン事情を交えて解説していきます。

まずは米国の金融の歴史からそれを紐解いていきましょう。

マイホームの夢、貯蓄貸付組合の発足で実現

米国でも住宅購入の際は、ローンを組むのが一般的ですが、かつては商業銀行が対象としたのは企業向けの融資が中心でした。

マイホーム購入のための個人を対象とした住宅ローンを貸し付けるという環境は整備されていませんでした。

そこで登場したのがS&L(Saving and Loan Association)とよばれる貯蓄貸付組合です。

この組織は、預金から集めた資金をもとに、長期の固定金利で個人向けの住宅ローンの提供を始めました。

全米各地に設立されたS&Lは、地域密着型の金融機関として安定した収益を上げ、そのビジネスは3-6-3ルールと形容されました。

これは、S&Lにお金を預けると3%の金利がつき、住宅ローンを組む際の金利は6%、さらにS&Lの行員は仕事を3時に切り上げゴルフ場に向かったということから由来しています。

米連邦預金保険公社(FDIC)によると、1980年にはS&Lのうち、預金保険制度運営主体として発足した連邦貯蓄貸付保険公社(FSLIC)に加盟した数は約4,000行で、その総資産は6,040億ドルに上りました。さらにこれとは別に、メリーランドやマサチューセッツなどの各州の預金保険に加盟していたS&Lも別に存在し、その数は590行、総資産122億ドルに達しました。

こうして、個人のマイホーム実現のために組織されたS&Lは、米国全土でネットワークを拡大し、資産規模を膨らましていきました。

インフレによる金利上昇、逆ザヤによりS&Lの相次ぐ破たん

S&Lの出現によって個人への住宅ローン融資が広がり、S&Lの住宅市場での存在感も増していきました。しかし、順調に見えたビジネスが、1980年代に入って危機を迎えるのです。

その契機ともなったのが、70年代に移行した変動為替相場制度やオイルショックによって進行したインフレ(=インフレーション=物価上昇)でした。

そして、これに伴う形で金利も上昇していったことが危機の引き金となりました。

S&Lはもともと、長期の固定金利で住宅ローンを提供する一方、住宅ローンの資金を短期の預金で集めていました。

しかし、その預金金利が住宅ローンの貸出金利を上回る逆ザヤの状態に陥ったのです。

S&Lは収益改善のため、住宅ローンのほか、商工ローンにも業務範囲を拡大したものの、経営状況を改善することは困難でした。

こうして、各地でS&Lの破たんが相次ぎ、CurryとShibutの両氏がまとめたFDICのレポートによると、86年から95年にかけてS&Lの数は3,234行から1,645行までに半減してしまいました。

さらに、その破たんに伴う納税者と金融業界の負担したコストは約1,530億ドルに上ったと推計されています。

住宅ローン証券化でリスク分担へ

数多くのS&Lが破たんしたことで、莫大な処理コストを負担することになった米国では、個人を対象にした住宅ローンを提供してきたS&Lにリスクが集中したことが、相次ぐ破たんに繋がったとされたのです。

こうして、金融当局による改革が進められ、住宅ローンの証券化が積極的に推進されました。

それまではS&Lが抱えていた住宅ローンのリスクを分散することにしたのです。

証券化にあたっては、1つ1つの住宅ローンを集めて束にし、そのまとまった束を証券化したことで、住宅ローンの貸付から回収まで間に証券化や保証など新たなプロセスが加わることとなりました。

さらにそれぞれのプロセスに特化したプレイヤーがその業務に専念することで、リスク分散を可能にしたのです。

そのようにして、住宅ローンの証券化市場が米国で発展していったのです。

証券化により、住宅ローンを貸し出すS&Lなどの金融機関は、証券を発行する機関に住宅ローン債権を売却することで、住宅ローン債権が金融機関自身のポートフォリオから外れ、リスクを抱える必要がなくなったのです。

さらに、住宅ローン債権の売却資金を活用して、新たな住宅ローンの貸出に乗り出すことができるようになり、預金などで資金を調達しなくとも、貸出に回すお金を容易に確保できるようになったのです。

こうして米国では、金融機関が証券化で得た資金をもとに、住宅ローンの借り換えを促進する環境が整っていきました。

米国ではS&L(Saving and Loan Association)の相次ぐ破たんを受けて、住宅ローンの証券化が進められることになりましたが、そのうえで大きな役割を果たしたのが政府支援機関でした。

また、証券化により、金融機関の抱えるリスクが軽減され、住宅ローンの借り換えが積極的に推進される米国とは対照的に、日本の金融機関を中心とした住宅ローンを取り巻く環境は大きく異なります。

米国証券化市場で存在感を増した政府支援機関

住宅ローンの証券化で大きな役割を果たしたのがファニーメイとフレディマックでした。

前者は、1938年に住宅ローン買い取りを目的に連邦住宅抵当公庫として発足しました。

後者は、そのファニーメイを補完するために、1970年に設立された連邦住宅抵当貸付公社で、政府支援企業(GSE)として、民間の金融機関から住宅ローン債権を直接買い取り、住宅ローン市場に資金を供給してきました。

しかし、サブプライム問題に端を発した住宅バブル崩壊で経営危機に陥り、いまだに両社は公的管理下に置かれています。

米連邦準備理事会(FRB)によると、米国の住宅ローン残高は約10兆ドル(2015年)です。

このうち3分の2ほどが証券化されているといわれ、ファニーメイやフレディマックなどのGSEが、住宅ローン市場で果たしている役割がいかに大きいかということがわかるでしょう。

一方、住宅金融支援機構によると、日本の住宅ローン残高は186兆円(2015年度末)で、住宅ローンの証券化を実施した金融機関は3.0%(2015年度)にとどまります。

さらに、73.8%の金融機関が証券化の検討も必要性もないと回答しているのが現状です。

証券化の目的として、金利リスクの回避・軽減が最も多い意見でしたが、実際の証券化に向けては、ノウハウの不足が最大の課題として浮かび上がっているようです。

金融機関からの借り換え促進は期待できず

住宅ローンの証券化が進まない日本では、依然として金融機関が様々なリスクを抱えることになります。

例えば、金利が下がっている局面では、金利の低い住宅ローンへの借り換えを検討するケースも多いでしょう。

住宅ローンを抱える人にとっては賢明な選択ですが、金融機関からすると、期限前に住宅ローンの返済が終わってしまうと、将来に渡って得られるはずの金利収入が減少するデメリットがあります。

さらに、金利が低下する状況では、返済された資金をより有利な条件で運用するのは困難です。

このため、金融機関は住宅ローンの借り換えによって、想定外のキャッシュフローが経営に影響を及ぼすリスクを警戒します。

この点が米国とは異なり、金融機関が積極的に住宅ローンの借り換えを促進できないもっとも大きな理由といえます。

住宅ローン借り換えは債務者の金融リテラシー頼み?

金融機関からの住宅ローン借り換えの積極的な取り組みが展開されない日本では、住宅ローンを抱える人が、自ら行動を起こすことが必要となるでしょう。

しかし、住宅金融支援機構によると、住宅ローンの新規貸出額に占める借り換えの割合は、3.4%(2015年度)にとどまっています。

それでは、住宅ローンの借り換えを阻むものは何でしょうか。

SBIモーゲージとオールアバウトが首都圏を対象に住宅ローン借り換えに関する調査(2014年)をしたところ、「借り換えする理由が特にない」「手数料がかかる」「手続きが面倒」といった意見が多数を占めました。

一方、住宅ローンの借り換え経験者を対象にしたエコンテの調査では、「借り換えにより得をした」が46.3%、「どちらかといえば得をした」が47.0%と9割以上が借り換えで経済的な負担の軽減に成功しているデータが浮かび上がりました。

2016年に日銀がマイナス金利政策を導入してから、住宅ローン金利は史上最低の水準で推移しています。

住宅ローン借り換えで、毎月の返済額が減ったり、返済期限が短縮されたりする可能性がますます高まっていることは事実です。

住宅ローンの証券化が進み、金融機関が積極的に借り換えを促進するアメリカとは異なり、特にネット銀行を除く金融機関が借り換え促進に消極的な日本の現状では、住宅ローンを抱える人が、自ら一歩を踏み出すことが低金利時代のメリットを享受できるかどうかの鍵となりそうです。

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(文/ モゲチェック・メディア 編集部)

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